アメリカの「定年」

トレーラーの旅

早期退職して平日の昼間に自宅に居る機会が増えると、ふとスイッチを入れたテレビ画面で、ゴールデンタイムには決してやらないだろうドキュメンタリーや昔のドラマなどの秀逸なアーカイブに、期せずして出会うことがあります。

とりわけ最近では、BSフジの「新・座頭市」で繰り広げられる、今はなき勝新太郎の殺陣に魅了されていたのですが、今回は、平日の朝に、NHK BSプレミアムで見つけた「定年・夫婦で走った40日〜中米縦断・トレーラーの旅〜」というタイトルに惹かれ、思わず最後まで 見てしまいました。

番組では、「第二の人生」を迎えたアメリカの24組の50代から70代までの夫婦が、テキサスからパナマまで、それぞれの自前のトレーラーハウスを引っ張って、停泊地で共にキャンプを重ねながら、それぞれの夫婦の愛情と仲間の連帯感を深め、今を生きる喜びを共有していく姿が描かれています。

それぞれの夫婦が辿った人生の紆余曲折を振り返りつつも、子育ても終えた自分たちの今の時間を本当に楽しんでいる様子は非常に感慨深いのですが、全編を通して、アメリカならではの老夫婦のラブラブさ(日本の夫婦にはとても真似できない)や、いかにもヒューマニズムな言動に、時々、引いてしまうこともあります。

それでも、定年後の第二の人生で、このような旅を大胆に選択してしまう彼らの人生に対する貪欲さを羨ましくも感じました。
他方、私の場合、一部の夫婦が自宅を売却してまでしたような、トレーラーハウス(日本ではキャンピングカー)を購入するような気にはならないでしょうし、もし旅に出るとしても、間違いなく、夫婦ではなく「単身(一人旅)」になることは容易に想像できます。

それぞれの「定年」

番組の初めから不思議に感じていたのは、アメリカの「定年」です。

アメリカには、現役中に仕事で度々訪ずれ、日本の「定年」は「リタイアメント」、早期退職は「アーリーリタイアメント」と専ら訳していましたが、よくよく考えてみると、アメリカでは、そもそも年齢・性別等で雇用差別をすること自体、許されていません。

これまで、そのような質問をアメリカ人にしたこともなかったので、改めて色々調べてみると、どうやら、アメリカで言う「リタイアメント」とは、それぞれが自分で決めた「働くのをやめた時」のようです。

もちろん、一方の企業側にも、日本よりずっと大きい解雇の裁量が認められているので、もし仕事のパフォーマンスが悪ければ、日本とは全く違って、アメリカでは簡単に首を切られます。

すなわち、アメリカでは、高い所得を得て若くして辞めることもできる一方で、スキルと貢献がある限り、いつまでも現役で働くこともできるという点では、日本のようなあらかじめ決められた年齢で自動的に会社を去らなければならない「定年」とは全然違っていて、アメリカの「定年」とは、それぞれの労働者が、自分の意思と責任で自発的に決めるものなのです(それは「諦念」と言える気もします)。

アメリカと日本の「定年」では、会社を去るという行動に、「自主性」が有るか無いかが全く違うのです(その意味では、早期退職の方が、アメリカの定年に近いのかも知れません)。

日本の「定年」は盤石なのか

しかし、そんな日本の「定年」も、もうすでに崩れかけています。

国は、少子高齢者社会の到来に備え、年金給付までの定年や雇用の延長などを企業に働きかけていますが(改正高年齢者雇用安定法)、現実には、これまでの60歳定年すら、もはや全てのサラリーマンに保証されてはいるものではありません。

私が早期退職した会社も、元々は、終身雇用の歴史は古く、多くのOBがそれぞれの人生を捧げて定年まで勤め上げるに足る日本的企業でしたが、数年前に企業業績が大きく落ち込んだ時から、「ライフプラン」の名の下、会社を早く辞めさせるためのインセンティブ制度が次々に開発されました。

その結果、中途退職者や早期退職者は年々増えていき、60歳の定年時まで、無事に企業内にとどまることができる(できた)社員の割合は、年々目に見えて下がっていました。

日本にも「リタイアメント」を

今や、日本のサラリーマンも、「定年」と呼ばれてきた会社人生の終着点を、それぞれが、「リタイアメント」として、あらかじめ自分の意思と覚悟でコミットしておき、その日(それぞれのゴール)に向かうつもりで、計画的かつ戦略的に、日々の仕事に向かい合うべきだと強く感じます。

現在、何の意思もスキルも自発的行動もなしに、与えられた目の前の職務を遂行するだけの「サラリーマン」という身分(もちろん、それだけでも大変なのは知り尽くしています)に留まれている一部の人たちは、今後、ITとAIのさらなる進歩による正社員スキルの絞り込みもあって、そう遠くない未来には絶滅するのではないかと感じています。




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